「永い言い訳」の概要
映画「永い言い訳」とは、2016年に公開された日本映画です。
監督・脚本とにも西川美和、同名小説である原作も西川美和です。
主演は本木雅弘です。
受賞は、キネマ旬報ベスト・テンの5位と助演男優賞、毎日映画コンクールの男優主演賞と監督賞に止まりました
もっと評価されるべき重要な映画だと思いましたが、2016年は、近年まれに見るほど日本映画が隆盛した1年でした。
「この世界の片隅に」「シン・ゴジラ」「君の名は。」「淵に立つ」「怒り」「リップヴァンウィンクルの花嫁」など…
世界的にも話題になった映画や、実力者たちの渾身の作品が集中するなかで、少し埋もれてしまったのかも知れません。
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「永い言い訳」のあらすじ
作家の衣笠幸夫(本木雅弘)は、妻の夏子(深津絵里)を交通事故で失ってしまいます。
しかし夫婦関係は冷めきっており、幸夫は悲しむことはありませんでした。
事故を機に、夏子と共に事故死した大宮ゆき(堀内敬子)の夫である大宮陽一(竹原ピストル)と彼の子供たちとの交流が始まります。
トラック運転手である陽一は2人の子供を抱え、困窮した生活を送ります。
そんな陽一に、経済的にも精神的にもさしてダメージを受けていない幸夫は手を差し伸べます。
陽一や子供たちとの交流の中で、それまで蓋をしていたはずの人間らしさというか、人間臭さが幸夫に戻ってきます。
また、自分とは全く異なる価値観を持つ人々との交流を通して、死んでから夏子のことを意識していきます。
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「永い言い訳」の感想
本木雅弘の演技
主演である本木雅弘の演技がとても素晴らしいです。
予告を見ても分かる通り、激情を露わにするインパクトが強いのですが、表現の幅の広さ、深さ、繊細も発揮されています。
妻と心を通わせられないクズ夫の顔、ビジネスシーンでの強がった男の顔、妻以外の女性に走る弱い男の顔、そして困った人に手を差し伸べる純粋で優しい顔…
人間の中にある光と闇、色んな感情、表情を実に見事に演じています。
子供を作るというテーマ
永い言い訳では、子供を作る、作らないというテーマにも切り込んでいます。
社会的に成功しながら意識的に子供を作らない選択をした幸夫と、稼ぎも少なく学も無いのに2人の子供を持つ陽一が対照的に描かれていると感じました。
幸夫は酔っ払いながら「種を残す」という事について、自分の考えを吐露するシーンがあります。
時間は取られる。金はかかる。
犠牲にされることは山ほどある。
手塩にかけた子供に人生をめちゃくちゃにされることもある。
〜中略〜
こんな、ろくでもない人間増やすしてどうすんだ。
自分の遺伝子が怖い。
また、陽一を通して、親の資格とか親子関係についても考えさせられます。
学の無い陽一とは違って、とても頭の良い長男の真平は、ある日、陽一を罵ってしまいます。
それに対して、暴力で黙らせるしかない陽一。
親子と言えども、全く異なる魂を持つ他人です。
それが分からなければ親の資格は無いと思いますし、良い関係も構築できません。
殴られた後、真平はこんな事を言います。
殴ったって痛いだけだよ。
何も変わらないよ。
僕、お父さんみたいになりたくないの。
また、幸夫のマネージャーである岸本(池松壮亮)が何気なく話すセリフも印象的でした。
子育てって免罪符じゃないですか。
男にとって。
みんな帳消しにされてる気がする。
自分がバカでクズだってこと、全部忘れて。
日本では、殺人事件の半分以上が親族間での殺人です。
そんな問題にも、メッセージを投げかけている重要な映画だと思います。
他人あっての人生
そして、私が永い言い訳から受け取った最も強烈なメッセージ。
それは「他人あっての人生」だということ。
社会的にも成功していて、妻を失っても女性にも不自由しないはずの幸夫は、どうして困っている陽一に手を差し伸べたのでしょう。
映画の中には、作家としてのネタ作りの為だという描写もありましたが、幸夫は心のどこかで「他者との本当の繋がり」を求めていたのではないでしょうか。
自らを犠牲にしてまで、誰かに自分を与える幸夫の顔は、他のどの顔よりも充実感に満ちていました。
だからこそ、これまで塞いでいた自分が溢れ出し、壊れた部分まで溢れだしてしまったのではないでしょうか。
本当に打算なら、テレビ番組の制作現場で発狂したりしません。
映画の終盤、交通事故を起こしてしまった陽一を迎えに行く電車の中、真平との会話の中で幸夫はこんなことを言います。
人間は強いけど、弱いんだよ。
大人になっても、親になっても。
君らの事、抱きしめても足らないくらい、大事でも。自分を大事に思ってくれる人を、簡単に手放しちゃいけない。
見くびったり、貶めちゃいけいない。
そうしないと、僕みたいになる。
僕みたいに、愛していいはずの人が誰もいない人生になる。
簡単に離れるわけないと思ってても、離れるときは一瞬だ。
だから、ちゃんと大事に握ってて。
君たちは、絶対。
陽一&真平と別れた幸夫は、帰りの電車の中でひとり、ノートに書き込んだ言葉は「人生は他者だ」でした。
幸夫は泣いている様にも見えます。
真平に語った言葉は、幸夫が心から伝えたかった本音であり、ノートに書き込んだ言葉は、幸夫が自ら掴んだ大切な答え、そしてこれからの自分を鼓舞する言葉なんだと感じました。
ラストシーン、妻の遺品を整理する幸夫の背中に、彼の終わりなき日常に幸あれと思わずにいられませんでした。
何度も号泣してしまうほどほど感情を揺さぶられた素晴らしい映画でした。
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