三浦綾子「塩狩峠」の概要・あらすじ・感想など(ネタバレあり)

三浦綾子「塩狩峠」

※ネタバレしていますので、物語の核心・結末を知りたくない方は閲覧をお控えください。

塩狩峠の概要

塩狩峠は、1966年4月から約2年半にかけて月刊雑誌「信徒の友」に連載された小説です。

三浦綾子の著作の中でも、最初の長編小説「氷点」と並んで特に知られています。

1909年に実際に起こった鉄道事故で殉職(暴走する鉄道を停止させる為に自らの体を犠牲にした)した職員、長野政雄がモデルとして描かれています。

後に、小説「塩狩峠」を原作とした映画も作られています。

タイトルとなっている塩狩峠は北海道上川郡に実際にある場所で、峠付近の塩狩駅の近くには長野政雄の顕彰碑(功績や善行などを称えて広く世間に知らしめるために建てられる記念碑)や塩狩峠記念館があります。

クリスチャンの著者がキリスト教の雑誌で連載した小説ですが、一般の大きなメディアから出版され、また映画となり、駅にはモニュメントまで建てられるほど多くの人々に読まれる名著となりました。

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塩狩峠のあらすじ

主人公である永野信夫が10歳の時から物語が始まります。

信夫は父の貞行、祖母のトセと東京に暮らしています。

母は死んでいると聞かされていましたが、実は生きていて、キリスト信者であることが理由で祖母に別居をさせられていました。

やがてトセが死んでしまいます。

それを機に、母の菊、そして妹の待子との暮らしが始まります。

信仰を持つ菊や待子との生活にとまどいながらも、平穏な日常がやってきます。

ある日、生涯の親友となる同級生、吉川との仲が深まります。

キリスト信者ではないものの、何か求道的な、他の同級生とは違う特別な魅力を感じます。

また、吉川の妹で、身体の不自由なふじ子にも特別な感情を抱きます。

この出会い以降、ふじ子に対する特別な感情を失うことはありません。

吉川は、知り合って間もなく北海道に引っ越してしまいますが、その後も文通が続きます。

信夫が中学三年生になった頃、菊の甥である隆士が、大学入学のため信夫の家に住むようになります。

男気溢れる人となりに魅力を感じる一方、遊び上手な隆士との交流の中で、自分が揺さぶられていきます。

そんなある日、父の貞行が急死します。

働き手のいない家のために、信夫は中学卒業後、裁判所に就職します。

やがて、隆士の紹介で作家の中村春雨と出会い、キリスト信者でもある彼の作品を通して、人間の罪や許しについていっそう考えを深めるようになります。

ある日、吉川の祖母の葬式で吉川一家が東京にやってきます。

吉川家庭との充実した交流の中で、信夫は北海道への思いを強めてきます。

23歳になった信夫は「しばらく2~3年は北海道に住んでみるのも良い」という思いで北海道に移住し、鉄道会社に就職します。

真面目な性格もあって、仕事はうまくいき、吉川家との交流も始まります。

一方、ふじ子はますます身体が弱っていくのですが、清純さを失わないふじ子と心の交流は深まるばかり。

信夫は、ふじ子の回復の為あらゆる手を尽くします。

その甲斐あって、少しずつ回復の兆しが見えてきます。

ある日、信夫は駅前で路傍伝道をしていた伊木と出会い、ついに本当の意味で神を信じます。

それから、同僚の給料を盗んだ三堀に対して、隣人への友愛を実践し抜くことを誓い、三堀と共に旭川への転勤を決意します。

旭川への転勤をふじ子に告げる際、身体が治った暁には正式に結婚したいと申し出ます。

旭川に来ても、やはり信夫は仕事でも活躍し、教会の活動も始めるようになり、ついに洗礼を受けます。

旭川での生活の中、札幌に住むふじ子はほぼ回復し、ついに結婚することが決まります。

そして結納の当日、札幌に向かう電車が事故を起こします。

塩狩峠の斜面を下る客車は止まらず、このままカーブに入れば客車は転落し、乗客は助かりません。

そこで、信夫は自分の命と引き換えに、客車を止めます。

塩狩峠の感想

読み終えた後は、劇的な結末や信夫とふじ子の純愛の余韻が強かったのですが、時間が経つにつれ物語で描かれる信仰の部分が強く残っていきました。

日常生活の中で、信夫と同じ葛藤が生じるけれど、信夫と同じ様な選択ができない弱い自分を発見させられるからです。

「自分はクリスチャンじゃないから…」という割り切りができないのは、宗教っぽい「信仰」という言葉が、実は人間が本質的に持っている良心の事なんじゃないかと感じるからです。

クリスチャンの著者がキリスト教の雑誌で掲載した宗教色の強い作品にも関わらず、これだけ多くの人に読まれ続ける理由もここにある様に思います。

信夫は神を信じ、洗礼を受ける前、キリスト教に反発さえしていたのですが、自己の欲望のままに生きることに葛藤し、良心に従って生きれない自分と格闘するシーンが何度も出てきます。

欲望のままに生きることが、真の意味での人生の充実を与えてくれない事を分かっているのです。

人間は、真理を頭で知る前から、本当は誰もが心の中に真理を持っているのではないでしょうか。

信夫ははじめから義人だったわけではありませんし、洗礼を受けた後の信夫だって、私たちと同じ弱い人間だったと思います。

「人に良いことをしている」と思い上がっている自分。

「人を愛せている」と傲慢になっている自分。

そんな、自分の罪を知り、そして十字架による贖いと神の愛を知り、自分の弱さを抱えたまま強く生きる為の信仰を掴んでいったのです。

キリスト教のメッセージでは、よく人生を木に例える話が出てきます。

「神に根ざし生きる人生は良き枝葉を実らせる。良き枝葉は枯れ果てた後も良き種を蒔き、そして新たな良き実をつける。」というものです。

信夫の生き様、いや、実在した長野政雄の残した種は、三浦綾子という才能によって作品として花開き、現在を生きる我々にも潤いを与えてくれます。

人間にとって、真の意味で「良い生」とは何なのか。

宗教や思想を超え、そんな問いを投げかけてくれる正真正銘の名著です。

カテゴリ - 書評

2018/12/25

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